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キャラクター紹介

Character

HEISEI-Kun

ヘイセイ君

ヘイセイ君

REIWA-Chan

レーワちゃん

レーワちゃん

Droid

ドロイド

ドロイド

Scene.1

夢かうつつか、
娘が僕に会いに来た

レーワちゃん

……さん。……とうさん……。おい! おとうさんってば!!!起きて!!!!

昼休みはとっくに終わった13時30分。午前中から取り組んでいるPC仕事に復帰したしたふりをしながら「秘技・開眼睡眠」という必殺技を繰り出し、いかにも画面を真剣に見ているかのような表情で十分な午睡をとっていた私は、どこかで聞いたことがあるような声に呼びかけられ、目を開けた。いや、「秘技・開眼睡眠」によりずっと目は開けていたのだが、目を覚ました。
学生時代の妻によく似た、しかしメイクの仕方が当時とも現在とも若干違う感じがする若い女性が中空に浮かび、そこから私に何かを訴えている。
……あぁ、夢か。夢なんだな。夢を見ながらでも、仕事をするふりさえしていれば(正確に言うと秘技・開眼睡眠の術を会得さえすれば)給料がいただける“会社”とは、なんて素晴らしいところなんだ。

「ありがとう、会社! 
そして、おやすみなさい!」

ヘイセイ君

心の中でそう叫び、私は再び開眼睡眠の境地へと旅立とうとした。

レーワちゃん

「おやすみじゃなくて起きてよ! おとうさん!!!」

……おとうさん? 珍妙なる呼ばれ方に再び覚醒した私は、あらためて若い女性をまじまじと見る。中空に浮かんでいるように見えた彼女は、どうやら立体映像として、私のデスク上の天井付近に映し出されているようだ。

……ええと、どちら様ですか?

ヘイセイ君

レーワちゃん

「私、レーワ。あなたの娘のレーワです。今ちょっと大変なことになっちゃったんで、おとうさんを連れに来たの。そんな、寝ててもなんとかなっちゃうような会社はとりあえずさぼっていいから、私と一緒に未来に来てくれない?」

Scene.2

未来ってどこでしたっけ?

はて、私の娘のレーワ? 確かに妻は今妊娠6カ月目で、もしも無事に生まれてきてくれるなら、性別は「女の子」であることはわかっている。で、妻と冗談で「名前は“令和”にしようか(笑)」などと話したこともある。
だがしかしなんだって、まだ妻のお腹にいるはずのレーワ(仮)が実体化して、というかホログラム化して、私の目の前にいるのだ? 古典的なアレとしてほっぺたをつねってみたが、確実に痛い。どうやら白日夢ではない。

レーワちゃん

「と・に・か・く! 今ホントに時間ないから、悪いけどおとうさんを力づくで未来に連れてかせてもらうね。えいっ!」

かわいい声とは裏腹な腕力で私を持ち上げたレーワ(仮)は、私を妙な乗り物の助手席らしきシートに座らせ(というかほぼ放り投げ)、自動的に締まる安全ベルトが固定されたことを確認するやいなや、スロットルレバーらしきものを前方に倒した。時空が歪み、星雲が流れ、はるか遠くのほうで恒星の誕生と消滅が繰り返されているのが見えた。
……私は確かに仕事をサボって寝てはいたが、酒は飲んでない。変なクスリもやってない。そして睡眠も十分以上に、必要以上に取れている。となれば……これはおそらくは事実であると推定するほかない。……キミ、本当に未来からやって来た我が娘、レーワなの?

レーワちゃん

「ふう……」

自動航行モードらしきものが安定したのか、レーワは操縦桿のようなものから手を離してひと息つき、こちらを向いた。

Scene.3

私あなたの娘です。ポンコツな未来を軌道修正してあげる

はて、私の娘のレーワ? 確かに妻は今妊娠6カ月目で、もしも無事に生まれてきてくれるなら、性別は「女の子」であることはわかっている。で、妻と冗談で「名前は“令和”にしようか(笑)」などと話したこともある。
だがしかしなんだって、まだ妻のお腹にいるはずのレーワ(仮)が実体化して、というかホログラム化して、私の目の前にいるのだ? 古典的なアレとしてほっぺたをつねってみたが、確実に痛い。どうやら白日夢ではない。

レーワちゃん

「あらためまして、はじめましてというかなんというか、あなたの娘、レーワです。22年後のニッポンからやってきました」

「あ、どうも。はじめまして……」

ヘイセイ君

レーワちゃん

「それでね、おとうさん。結論から言うとおとうさんの会社、潰れます」

……はい?

ヘイセイ君

レーワちゃん

「今はおとうさんみたいな従業員が半分寝ててもいちおう利益が出ちゃうヌルい感じだけど、社会の変化でそうもいかなくなってね、10年後に倒産するの」

…………はい?

ヘイセイ君

レーワちゃん

「それでね、住宅ローンとかいろいろあるでしょ? それなのにおとうさんも、おとうさんの会社も時代の変化にぜんぜんキャッチアップできてなかったもんだから、結局は再就職できなくてね、結局はおかあさんと離婚するの。で、一家離散ね」

なんと……お前にそんな大迷惑をかけてしまうことになるとは……。

ヘイセイ君

レーワちゃん

「まぁおとうさんにタイムパラドクスのこととか説明してもたぶん理解できないと思うけど、とにかく“今”ならまだやり直しが利くの」

……どうすればいいの?

ヘイセイ君

レーワちゃん

「私ね、大学で社会イノベーションと組織論を専攻しているの。ハッキリ言って、おとうさんの時代のそこらへんの経営者より、よっぽど会社運営に詳しいよ。だから私がこれからおとうさんに“未来の世界”を見せながら、ビジネストレンドをレクチャーするわけ。で、それで過去に戻ったおとうさんが、その知識を活かして今の会社を改革すれば――少なくとも倒産することはないでしょ? さらに言うなら大出世しちゃうかもね。ま、とにかくそういうことだからよろしくね。おとうさん」

……大変かわいく聡明に育ったものだと感心しつつ、あることに気づく。
「そういうことだからよろしく」というのは妻の口癖だ。しかも、俺に有無をも言わせないときの……。
頼もしいというのと「ちょっと怖い」というのと、さらには「俺の娘……愛おしい!」という生まれて初めての感情がないまぜになり、今の私はかなり混乱している。だがとにかく今は、我が娘レーワとの「未来のビジネスジャーニー」に身を投じるほかないことだけはよくわかる。
なぜならば、我が一家を離散させるわけにはいかないし、そもそも「帰り方」がわからないからだ!
かくして私の学びの旅が始まった。