
世界の半導体産業を力強く支えてきた YDKのモノづくり、人づくりとは?
現代人の生活に欠かせない“半導体”。その製造を支えている現場はどうなっている? 世界の半導体産業を縁の下から支える「株式会社YDK」宮城工場の奥山工場長に、半導体におけるモノづくりへの姿勢について、半導体産業の未来について聞いた。
1.今や半導体のない生活は考えられない
私たちの身近にある家電製品の中で、半導体を使っていないものは皆無に等しい。半導体の発見、それを利用した器具の発明は私たちの生活を劇的に便利にしてくれた。
半導体とは、その名のとおり電気を半分通す性質をもつ物質のことだ。条件に応じて電気を通す、通さないを瞬時に繰り返すことで複雑な制御を可能にし、情報をデータ化して送ったり、電力を増幅させたりすることもできるようになった。
「ひとくちに半導体と言っても、電流や電圧をコントロールするパワー半導体、演算するためのロジック半導体、情報を記録するためのメモリー、センサーなどの種類があります。いずれの半導体にしても、ウェーハから半導体チップ(集積回路)として製品に仕上げるまでには、600〜1000もの工程を経て作られています(奥山氏)」
現在、半導体の材料に使われているのは、そのほとんどがシリコンだ。パワー半導体など一部の分野では、かねてから代替材料として期待されてきた窒化ガリウムや炭化ケイ素などを用いた半導体がようやく市販化されつつあり、また次世代半導体と呼ばれるダイヤモンド半導体の研究開発も進んでいる。しかし、何十年にもわたって半導体の主原料として用いられ、強固なサプライチェーンを築いてきたシリコンの地盤はそう簡単に揺るがない。
2.最新の設備を備える国内有数の工場
YDKは1952年に創業し、半導体の製造装置や検査装置、産業用設備の設計、製造などの分野で業績を大きく伸ばしてきた会社だ。その中でも2018年に新設された宮城工場は、世界最大級のシェアをもつ半導体製造装置メーカーを主な取引先とし、昨今の旺盛な半導体需要に応える形で新設された。半導体製造装置の受託生産を主軸事業とし、部品の受入から洗浄、組立、調整、検査、出荷までの作業を、ひとつの工場内で一貫して行えることが大きな特長となっている。
新工場建設にあたっては、広大なクリーンルームや洗浄装置といった特殊な設備も導入された。
「これだけの天井高(8.5m)と広さがあり、かつホイストクレーン(荷を上げ下げし、水平移動できる装置)を備えるクリーンルームは、おそらく競合他社にはありません。実はこの工場ができた当時、ここまで規模の大きなクリーンルームは必要なかったのですが、稼動開始から3年ほど経ったころ、主要取引先が従来よりも重量のある製品の製造を計画したのです。そうした製品を作れる設備は当工場にしかなく、無事受注いただけることになりました(奥山氏)」
数年後のニーズを的確に捉えて設備に反映した、まさしく先見の明というところだろう。
3.成長を支えるのは人の力に他ならない
YDKがこれまで業績を伸ばしてきた理由は何かを尋ねると、奥山氏はこう答えた。
「当社は創業から72年が経過した現在、国内外に6拠点を展開しています。当社が成長し続けることができた背景は、お客様企業との信頼関係を築き、品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery)に、ワンストップサービス、スピーディな対応、お客様のサプライチェーンに組み込まれることの『3S』を加えた『QCD+3S』を追求してきた結果、と言うことができるでしょう。
『QCD+3S』を実現するには、フレキシブルな生産体制の構築が欠かせません。将来を見据えながら、生産体制、物流体制を整えていく……実はここが一番難しい。安定的な人材の確保が求められるからです。当社も他産業の例に漏れずオートメーション化を進めていますが、半導体製造装置生産の現場においてはまだまだ人の手が必要です。こうした課題に対しては自社だけでなく、綜合キャリアオプションなどのパートナー企業と連携しながら体制を一層強固にし、解決していきたいと考えています」
半導体製造装置の受託生産はどうしても一品一様の性質があり、ロボットによる大量生産には限界がある。最先端技術が集積した生産の現場でも、肝心なのはやはり人の力ということだろう。
YDKは「お客様第一主義」を社是にすると同時に、「働くことの幸せと経済的な幸せの双方の実現を追求」を誓う、社員ファーストを企業理念に掲げる会社でもある。
そうした理念は宮城工場でも十分に感じることができた。たとえば新入社員が初任給をもらうセレモニーでは、上司から新入社員へと給与明細を手渡すとともに、彼らを育ててくれた親御さんを招いて感謝の意を述べる。吹き抜けの正面エントランスは季節によって装飾が変わる演出。地域のイベントなどにも積極的に参加し、地域社会と積極的に関わっていく。そうした様々な施策を通じて、「働くことの幸せ、働くことによっての成長」を実感してもらうのが奥山工場長の方針だ。
宮城工場はもともと、YDK社員数名が宮城県内の取引企業へと出向したことを契機に計画が立ち上がった。2018年の工場稼動開始時には従業員数280名ほどでスタート。その後、次々に新棟を建設し、従業員数も拡大。今年度には600名ほどになる予定だと言う。人材の確保は会社の成長に不可欠だ。より多くの人材を採用することは、産業を育ててくれた地域への恩返しでもある。
▲宮城工場内にあるフォレストラウンジは、木の温もりを感じられ、社員がゆっくりとくつろぐことができる空間。アイランドキッチンや大型スクリーンも備わり、イベント会場としても利用される
4.ビッグチャンスを迎える日本の半導体市場い
日本の半導体産業はかつて世界トップシェアを誇っていた時代があった。ところが1986年に日米間で締結された不平等な条約「日米半導体協定」、円高などを要因として急激に勢いを失い、現在のシェアは1割ほどと言われている(総務省「令和3年 情報通信白書」)。
しかしYDKが携わる半導体製造装置の分野においては今なお高いシェアをキープし、成長を続けている。その裏には高い技術力と、変化の激しい半導体ニーズに対応できる、フレキシブルな生産体制があることは間違いない。
さらに半導体そのものについても、今まさに復活する千載一遇のチャンスを迎えていると奥山氏は言う。
「社会全体ではIoT化やDXといったデジタルシフトが急速に進み、半導体市場は今後ますます拡大してくと予想されています。例えば自動運転など先進的な運転支援技術を搭載する自動車を作るには、一台につきシリコンウェーハ一枚分の半導体が必要と言われています。もしもそうした車が1000万台増えたら、1000万枚のシリコンウェーハが追加で必要になるわけですからね。
そうした中で昨今の半導体不足から既存のサプライチェーンを見直すべき、という意見が国内の家電メーカーや自動車メーカーからも散見されるようになりました。これまで盤石と思われていた半導体のサプライチェーンも、政情不安やコロナなどの要因で寸断されるリスクがあると分かり、半導体製造を再び国内に戻そう、という動きが出てきたのです。これはメイド・イン・ジャパンのモノづくりが復活するビッグチャンスだと私は捉えています」
国内半導体産業の復活が、半導体製造装置メーカーにとっても好材料となることは想像に難くない。さらに拡大する市場からの要求に応えるには、生産体制の改革と投資、人材の確保が急務だ。
最後に、どんな人物に入社して欲しいか尋ねると、次のような答えが返ってきた。
・明るく元気の良い方、相手の気持ちを考えることができる方
・目標、仮説を立て自律、自立、自走して進める方
・困難から逃げずに向き合い、乗り切る力(胆力・耐力)がある方
・モノづくりが好きな人
・チームで協力し、顧客に向き合える人
モノづくりは「人づくり」だと捉えている、と語る奥山氏。半導体産業と聞くと理系を想像しがちだが、コミュニケーション力や提案力といった文系の能力も求められている。これからの半導体産業を支えるのは、他ならぬアナタ自身かもしれない。
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